普通の人を連れてきてフラットな組織として回すのはどれだけ大変かという話

権限移譲とか自発性とかそんな話

俺には細かい論点を整理しつつ個別に指摘するような細かいまねができなかったので、単に自分の思ってることだけを書きました。

店長のように面白い文章は書けませんが、論点を整理しつつ個別に指摘するのは割と得意なのでやってみました。

論点を整理

前提知識の部分で齟齬があると面倒なので、かなり基本的な概念から私なりの理解で整理・再定義しておきます。

  • 人間は、一人では達成できない目標を達成するために、複数人が協力して行動することがある。この集団を組織と呼ぶ。
  • 集団が組織として目標を達成するためには、構成員の間で目標を共有し、各自が効果的に行動するためにコミュニケーションが必要である。
  • 構成員同士が直接コミュニケーションした場合の手間は、人数の二乗に比例して増大する。
  • 目標を効率よく達成するために、目標や構成員がすべき行動を集団の代表者が決定し、他の構成員は代表者の決定に従って行動する仕組みが使われることがある。これを指揮と呼び、指揮を行う者を指揮者(リーダー)と呼ぶ。
  • ほとんどの人間には、指揮できる相手の数に上限がある。それを超える人数が単一の組織として行動するために、複数の指揮者を階層的に配置し、上位の指揮者が下位の指揮者に指揮をする構造を使うことがある。本エントリでは、これを階層型組織と定義する。
  • 人類の歴史において、企業、行政、軍隊をはじめとする中規模以上の組織は、階層型組織が多数を占めてきた。

ここまでは割と当たり前な内容なので、あまり異論は出ないと思います。
人類が長らく使ってきた階層型組織には当然ながら問題点もあって
それに対するアンチテーゼとして、いわゆるフラットな組織が提唱されるわけですが
対立概念である以上、両者には一長一短があるはずです。

階層型組織 フラットな組織
トップダウンな指揮・命令系統 個人の独立した判断・行動
明示的で静的な分業・分担 暗黙的で動的な分業・分担
硬直化しやすい(変化に弱い) 硬直化しにくい(変化に強い)
大規模化しやすい 大規模化しにくい
個人への依存度が低い 個人への依存度が高い
教育コスト低い 教育コスト高い

個別に指摘

ここまで整理した上で、各記事を読み直してみましょう。


「それがリーダーってもんだよ」

Miyakeは何やら上機嫌で、滔々と自分のエピソードを語っていた。どうやらある有名インターネット企業の初期社員らしい。
でな、その会社に行って俺ははじめてボスになり部下を持ったんだ。

俺はその時に気づいたんだよ。リーダーであるってことは、自分の能力の無さを認められること、自分よりも何かで優れている人たちが「この人と一緒に仕事をしたい」と思えるような人であることだって。
それがわかってから、俺は自分は自分が得意なことを頑張り、あとは信用できるチームメイトたちに任せることにしたんだ。そしたら瞬く間にチームリーダーとして結果が出るようになったのさ。

いいか、覚えておけ。おれにしてもお前にしても、それなりに成功するってことは、なにかは得意なんだ。でも大体のことは不得意極まりない。全部自分でやろうとするな。自分よりも何かで優れている人たちが、その何かでお前のためにチカラを貸したいと思うような人間になれ。
それがリーダーってもんだよ。

Miyake風の投資家が語っているのは、階層型組織における指揮者の心得ですね。


権限委譲、リーダーシップ、チーム

小さなチーム

立ち上げたばかりのプロジェクト、例えば有志で集まってカンファレンスを開こうとしたときの事務局とか、オープンソースで何かソフトウェアを書こうとか、知人と一緒に漫画を書いてコミケに出展しようとか、あるいはスタートアップなベンチャー企業でもいい。なんでもいい。
そういうプロジェクトは得てしてゴールが明確だけどその達成のために色々と大小課題が沢山転がっているというところからスタートする。

こういう状況の場合、良いチームでは、先の「権限委譲」みたいな考え方で物事が進むのではなくって各個人がそれぞれ「おれこれやるわ」「じゃあ私は前にやったこともあるしこれを」という感じで課題が消化されていく。ありがちな言葉で言えば共通のゴールをみながら各メンバーが自発的にプロジェクトに「コミット」する・・・という空気。スクラムとかが目指しているプロジェクトのあり方、というのはそういうことだと思う。

リーダーの役割

何かの課題を複数人で解決するという同じテーマに対して「権限委譲」の方で示した構造と、後に示したチームの構造は大きく異なる。で、自分の考えるリーダーの役割というのは決して「権限を委譲する」、みたいな「自分の中から一部を相手に託す」ことでななく、チームの構造を後者の形になるように整えるということなんじゃないかなとおもう。

自分は過去10数年働いてみて、大きな組織が苦手だなということが身に染みてわかった。小さな組織では、あまり苦労しなくてもチームがその理想に近いチームとして機能する方向に全体の力学がはたらく。

naoyaさんには、フラットな組織が合っているようです。そこまでは良かったのですが、

リーダーシップにはいろいろな「型」があるだろうから、必ずしも自分の考え方がベストであるとは思わない。
けれども、経験的には前者よりも後者の方がみんな活き活きするようには見えます。

もちろん、モチベーションがゼロの人たちをその状態まで持っていくのは大変な話だというのは理解します。スタートアップや小さい組織ではその前提が成り立ちやすいから良かったという感想を自分も書きました。前提が成り立たない組織、大きな組織では理想的な状況を実現するのは大変ですが、だからといってリーダーシップとはどういうことかという本筋は変わらず一緒だろうと思います。

上記にまとめたように、階層型組織とフラットな組織には一長一短があると私は思います。
にも関わらず、フラットな組織の短所を「実現するのは大変」の一言で片付けてしまい
「あらゆる組織はフラットであることが万人にとって理想である」という主張に受け取れる書き方をしてしまっているので
組織運営に一家言ある皆さんを点火してしまったのではないかと思います。


個人的にはまったく間違いだと思うのだが(追記あり)

イノベーションを追及するというチーム編成をする、ということであればギリギリ権限委譲はナンセンスだと言えるかもしれないけど、そういう最先端でクリエイティブな世界で飯を食って、それ相応の報酬や評価を得られる人なんて何万人も日本にいないんじゃなかろうか。

大多数の人々は、フラットな組織に投入するよりも、階層型組織に投入した方が生産性が上がる。という経営者目線の指摘。


権限移譲とか自発性とかそんな話

どんな観点から見ても、組織の方向性を定める人間は必要です。そして「定める」人間がいる以上、そこにはかならず権限というものが発生します。よって移譲も必要になります。
みんなが自分から役割を買って出るためには、みんなが全体像と方向性を共有しなきゃいけない。それが可能なのは、みんながそれ相応にあたまよくて、意識が高い場合のみです。そしてそんなすばらしい世界はクソ高学歴な世界で、英語のなんとかっていう試験の点数が全員1億点突破だとかそういうすんげえ場所にしかありません。
水飲みたいの話でいえば「水飲みたいなあ」ってだれかが言ったときに「じゃあ俺が水買ってくるわ」って名乗り出る人がいればまだ上出来で、実際には「水って買うんすか?」「自販機で売ってんだろ」「まじっすか!初耳です! で、自販機ってどうやって使うんすか?」というのが日常的に発生するのが俺のいる世界なわけですよ。「デノミネーションって知ってる?」って聞いてあるいたら、店内に知ってる人間ひとりだけでした。そんなんだったら俺が買いに行ったほうが早い。長期的には水の買いかたなりなんなり教えないと俺が死にますけど。

ここまでは隊長の指摘と同じ。
日本のありふれた田舎で人を集めただけでは、フラットな組織として回らないという話。

ちなみにいま、うちの店は実は「みんなが自分のやれることをやる」をうまく組み合わせて、そこそこ戦える店になってると思います。ここまで来るのに何年かかったか……。
もちろんその影にはえんえんとその方向めざして俺が努力してきたってのもあります。

naoyaさんが「理解している」「大変な話」を実践した経験談。とても貴重。

まとめ

naoya「自分の経験から言って、階層型組織よりもフラットな組織の方がみんな幸せになれるので、リーダーはかくあるべし。大変だと思うけど。」
隊長「大変だと思う、で済めば世の中の経営者は苦労しない。ほとんどの経営者は苦労が嫌いなので階層型組織を使う。」
店長「自分の環境でフラットな組織を作って回すために、こういう苦労をした。」

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